坩堝シンジケートの隠れ蓑

「三人揃えば文殊の知恵」の反例として存在する今日この頃です(すぐ倍に増えたけど)。何をする訳でもなく、徒然なるままに色々やっていこうと思います。

つくって魔具魔具 幸せの竹とんぼ(3)

 

 

4.竹とんぼの昇天

 

 

シモゴエ

 第2章では、竹の持つ魔術的意味について話したよね。でも、そこから竹とんぼに邪気払いの効果を付与するのは難しかった。

 第3章では、竹とんぼの挙動が竹の挙動と似ていることから、そこに含まれる縁起の良さなんかを共有させたよね。でも、こちらも魔除けへと至ることはなかった。

 しかしだね。竹とんぼが竹から出来ていることと、竹とんぼが空に向かって飛翔することは、あるダイナミックな理論を使えば、邪気払いや魔除けにこじつけられるんだ。

 そのために、今一度さっきの『類似の魔力』論法を使うよ。

 

フタバ

 姿形が似れば効果も似るってやつでしょ?

 

シモゴエ

 そうだよ。

 実はね、竹とんぼには竹以上に似ているものがあるんだ。

 それについて語る前に、フタバくん。君は『竹取物語』って知ってるかい?

 

フタバ

 光る竹から見つかったかぐや姫が、桁外れの速さで美しい大人のお姉さんになり、お偉いさん方から求婚されるのを千切っては投げていたけど、月から身元引受人が来たため何やかんやあって帰ってしまう。

 確か、こんな話だったよね?

 

シモゴエ

 じゃあ、その身元引受人が何と言ってかぐや姫を連れて帰ったのか、知っているかい?

 

フタバ

 そうだなあ。確か「こんなきったないところ流刑地以上の価値ないよね(意訳)」とかじゃなかったかな。

 

シモゴエ

 そうだね。彼らにとって地上というのは汚い場所だった。それはつまり、彼らの住む月というのは清浄な場所ということだ。

 

フタバ

 えー、そうかな。クレーターで凸凹してるし、そこまで綺麗だとは思えないけど。

 

シモゴエ

 昔の人はそれを月の兎と呼んで愛でたんだから無問題だよ。

 ところでさ、フタバくん。どうして竹取物語の作者は地上を汚いものとして、月を清浄なものとして描いたんだろう。

 

フタバ

 え? うーん、やっぱりパッと見で月が綺麗だったからじゃないかなあ。金色に輝いているし、満ち欠けして趣もあるし。

 

シモゴエ

 もちろん、それもあるだろうね。でも、僕は思うんだよ。月が清浄だと描かれたのは、それが人の手の届かない空にあるからじゃないかと。

 

フタバ

 うん? どういうこと?

 

シモゴエ

 科学の発達した現在とは違い、昔の空は人々が入り込めない未知の領域だったんだ。それは同時に、人の手で汚すことのできないということも示している。天に向かって唾を吐いても、汚れるのは自分の顔であるようにね。

 一方で、地上はどうか。そりゃあ、豊かな緑や煌びやかな都はあったかもしれない。でも、同時に汚いものもごまんとあった。排泄物も血も死体も、零れるのは地上だよ。人が生活を営めるということは、散々に汚すこともできるということなんだ。

 

フタバ

 なるほど、つまり竹取物語において月が清浄だと描かれているのは、それの存在する空という領域が、そもそも清浄だったから。シモゴエさん的にはそう言いたい訳だね?

 

シモゴエ

 そうだよ。汚れていない清らかな状態。厄も魔も付け入る隙のない、まっさらな状態。そんな清浄さを、空と月は宿しているんだよ。

 

フタバ

 なるほどね。

 でもさ、そういうことが竹取物語から読み取れるんだとして、それって今回の竹とんぼと関係あるの? その、竹とんぼと何が似ているかということとさ。

 

シモゴエ

 大ありだよ。

 考えてみて、フタバくん。竹取物語の中で、かぐや姫は月の使者に連れられて空に昇っていった。彼女は一体、何から生まれただろう。

 

フタバ

 え? いや、竹でしょ。

 

シモゴエ

 そう。竹から生まれたかぐや姫が、清浄な月に昇っていく。この様子を見て、何か思い出すものはないかい?

 

フタバ

 ……なるほど。竹から生まれたものが、月を含む天に向かって飛翔する。確かに、似ているね。

 竹とんぼに。

 

シモゴエ

 その通り。竹とんぼは竹以上に、物語最後のかぐや姫に似ているのさ。その動きも、竹から生まれたという要素もね。

 ここでさっきの竹とんぼと竹の関係を思い出そう。これらは姿や動きが似ているから、効果も共有することができた。

 じゃあ、昇天するかぐや姫にはどんな効果が含まれているのか。それを知るために、彼女があの場面で何をしたのか考えてみよう。

 

フタバ

 確か……天の羽衣を着たんだっけ。そして、悲しみも悩みも消え去った。

 

シモゴエ

 そうだね。そして、この現象はとても重要なことだ。なぜなら苦悩を抱えていれば、月に帰れないからね。作中でも彼女はお爺さんとお婆さんを見捨てることについて、「空から落ちてしまいそうな気持になる」と言っている。そういう感情を持たないことと、空に昇っていくことはセットなんだよ。

 つまり、あの時。苦悩が消え去り、昇天していく時に、かぐや姫は地球ではなく月の住民になったんだ。苦悩のない清浄な世界に属したんだね。

 

フタバ

 じゃあ、そんなかぐや姫と似ている竹とんぼは……?

 

シモゴエ

 竹とんぼが空を飛ぶ。空を飛べるということは、苦悩を抱えていないということ。であればこそ、汚れた地上から解き放たれ、清浄な月へと至る。

 かぐや姫の月の民としての権能が、竹とんぼと共有されるんだ。

 さて、ここで最初の疑問に戻ってみよう。どのようにして、竹とんぼが邪気を払うのか。

 

フタバ

 なるほど、竹とんぼが月の民の権能を持つとすれば、そこに厄は寄り付かない。何故なら彼の住む地は清浄だからだ。

 それこそが、邪気払いなんだね。

 

シモゴエ

 その通り。

 竹とんぼは出生と挙動をもって、かぐや姫を模す。そして、あらゆる汚れを寄せ付けない、清浄のオカルトグッズへと至る。

 いやはや、作ってしまったね。魔法道具を。これはもう言わねばならないね。

 

フタバ

 そうだねシモゴエさん。

 

シモゴエフタバ

 つくって魔具魔具!

 

 

5.終わりに

 

シモゴエ

 ふう、どうにかこうにか竹とんぼを魔除けの道具に変えられたね。よしよし、じゃあ社会の混乱に乗じて高値で売り飛ばそうか。メ〇カリあたりに出品しよう。

 

フタバ

 えー、待ってよシモゴエさん。この記事の趣旨はオカルトグッズで国難を乗り切ることでしょ? 私腹を肥やす必要ある?

 

シモゴエ

 仕方ないじゃないかフタバくん。僕は地球生まれ地球育ちだよ? 身も心も穢土の化身なんだから、そりゃあ欲の皮も突っ張るってもんだよ。

 

フタバ

 罪深いなあ。でも、ただの竹トンボじゃ誰も買わないよ? 今垂れ流した詭弁を説明書きとして添えるの?

 

シモゴエ

 そうだね、それがいい。あとは箔をつけるために、特別な原料を使っているということにもしておこう。

 ……だけど、僕のアクロバティックなこじつけが、一体どれほどの人に伝わるんだろう。ちょっと不安だから、知り合いで試してみようか。

 

フタバ

 試すって? 説明書きを見せるってこと?

 

シモゴエ

 うん。そしてあわよくば買わせる。

 あ、ちょうどいいところにキキくんが転がってるね。呼んでみよう。おーい、キキくーん。

 

キキ

 お呼びですかー。

 

シモゴエ

 キキくん。突然だけど君、幸せになりたくなーい? もしそうなら、僕の作った効果抜群神武以来残虐非道開運グッズがあるんだけどさ。どう? 身銭を切ってみない?

 

キキ

 うーん、でもなー。一昨日も清水の舞台から飛び降りて二十針縫ったばかりだしなあ。

 

シモゴエ

 大丈夫大丈夫。不幸の前借りだと思って、いっちょ蛮勇を振るってみようよ。

 

キキ

 そこまで言われると心動いちゃう。じゃあその商品を見せてくれよ。

 

シモゴエ

 いいよ。その前にこのブログの記事を読んでね。

 

キキ

 ふむふむ、なるほど。竹とんぼってかぐや姫だったんだ。

 

シモゴエ

 戦艦も軍艦も織田信長も女体化する時代だからね。竹とんぼだって女になるさ。

 で、どうだい? この勇気凛々天地開闢興味津々意気揚々厄払いグッズ、今なら所持金の半分で買わせてあげるよ。

 

キキ

 うーん、でも気になることがあるんだよなあ。

 

シモゴエ

 気にならないよ。

 

キキ

 気になるっつってんだろ。

 竹とんぼはかぐや姫なんでしょ? だったら、邪気が寄り付かないのは竹とんぼにであって、飛ばす側ではないんじゃない?

 

フタバ

 え? どういうこと?

 

キキ

 だって、空を飛ぶのは竹とんぼで、飛ばす側は依然として地に足着いてるじゃないの。かぐや姫を送り出したお爺さんとお婆さんの立場だよ。

 

フタバ

 ああ、言われてみれば確かにそうだ。月の民の権能があるのは竹とんぼで、僕たちじゃない。汚い地上から解き放たれてないから、魔は付け込み放題だ。

 シモゴエさん、どうしよう。インチキ商法が前途多難だよ。

 シモゴエさん? あれ、シモゴエさん?

 

フタバキキ

死んでる……。

 

シモゴエだったもの

 皆は持論の穴を指摘されても舌は噛み切らないようにしようね!

 

 

 

 

(文責・故シモゴエ)