つくって魔具魔具 幸せの竹とんぼ(2)
3.類似の魔力
シモゴエ
思い出してごらん、フタバくん。竹に魔術的意味が含まれる理由は、空洞と爆音以外に何があったかな。
フタバ
ええっと、上に向かってぐんぐん伸びることかな? その常識はずれな成長具合に、人々は縁起の良さを見出したんだっけ。
シモゴエ
その通り。竹は上に向かって伸びることでも、特別な意味を獲得しうるんだ。
さて、ここで一度考えてみよう。竹とんぼはどうやって遊ぶ玩具かな?
フタバ
決まっているじゃない。プロペラみたく回して飛ばすんだよ。
シモゴエ
そうだね。じゃあさらに考えてみよう。翼を回転させた竹とんぼは、どこを目指して飛ぶだろうか。
フタバ
そりゃあ空だよ。上に向いて飛ぶのさ。
シモゴエ
大正解。竹とんぼは空を目指して羽ばたく玩具なんだ。
この動き、竹が空に向かって伸びる姿を彷彿とさせないかい?
フタバ
ええ? うーん、まあどちらも空目掛けて高度を上げてはいるね。でも、彷彿とさせるから何だっていうの? 意味があるの?
シモゴエ
大ありだよ。オカルトの世界ではね、姿が似ているということは、きわめて重要な意味を持つんだ。
フタバくんは漫画とかで見たことない? 吸血鬼が十字架を見て弱っている姿とかさ。
フタバ
あー、あるね。にんにくを食べさせられたり、おてんこぶつけられたり、身体に人狼の生首入れられたりして弱っているのと同じぐらいの比率であるね。やっぱり十字架には聖なる力があるんだろうね。
シモゴエ
じゃあ、どうして十字架に聖なる力があるのか。元を辿れば、イエス・キリストの磔刑に行き着くね。このはりつけに使われた刑具が十字架だったことから、転じてこの形状にはイエスの神性が宿ると考えられているんだ。
つまりだね。十字架が神聖だと見なされるのは、極端なことを言ってしまえば、イエスがはりつけにされた刑具に姿形が似ているからなんだよ。
これと同じようなことは呪いにも言える。例えば丑の刻参りで使われる藁人形なんかがそうだ。人を模したものに釘を打ちつけることで、同じく人である憎い相手へ呪いを吹っ掛けるという感じだね。
フタバ
なるほどね。
竹とんぼは上を向いて飛ぶという挙動が、竹の力強く伸びる姿に似ている。だから、竹と同じようなオカルトチックな意味、すなわち成長力にまつわる縁起の良さを持つということなんだね。
シモゴエ
そうだよ。空に舞う竹は全て縁起物なのさ。だからテッカグヤも縁起物だよ。
フタバ
うーん、でもなあ。
シモゴエ
どうしたんだい、フタバくん。納得いかないことがおあり? 許せないんだけど。
フタバ
他者の意見を尊重する姿勢を少しずつ養っていこうね。
とにかく、ちょっと引っかかるところがあるんだ。シモゴエさんは最初、竹とんぼには邪気を払うのにうってつけの要素が備わっているって言ってたでしょ。でも、今回の話を聞く限りだとさ。竹とんぼって、成長をもたらしてくれる効能はあるけど、魔除けや厄払いの力はないように感じちゃうんだよね。
シモゴエ
なるほど、確かにそうだ。
でも、安心してフタバくん。今までの説明はまだウォームアップに過ぎないんだ。今この瞬間からが、シモゴエさんによる常軌を逸した屁理屈の時間だよ。
竹とんぼが竹からできていること。竹とんぼが空を飛ぶこと。素材と挙動をこねくり回して、力づくで邪気払いにこじつけてやるから、覚悟しておいてよね。
フタバ
え、まだ続くの?
シモゴエ
不幸にもね。
(文責・シモゴエ)